駒ケ根 丸富 ★★★★☆

通り過ぎそうな地味な看板と道から一段低くなった植え込みに隠れそうな赤い屋根の建物とで奥ゆかしい外観。
玄関に「開」と筆書きされた看板が掛かる。
天井吹き抜けの店内は実に質素。厨房では主人がせわしなく動いているが,わさわさした感じは受けない。
給仕の女性(情報によると主人の妹さん?)の丸い雰囲気がこの店のほんわかした全体像を象徴してるように思えた。
まず,そばがき。陶器の器でそば湯の中にどっぷり浸かって供される。
それだけで食べてみると物足りなさも感じるほどに実に上品なふわふわの食感。
薬味の大根おろしと生醤油をかけると,そばがきの存在感までもが増す。
蕎麦は2種類。生粉打ちの「しらびそそば」と「粗碾き」。
しらびそそばは十割蕎麦なのにクセというものが全く無い。
ツユは単独で口に含んでみるとかなり塩辛いと感じたものが,蕎麦と絡めるとマイルドに変貌。
これはマジックと言っていいかもしれない。
粗碾きの方は田舎蕎麦風の見栄えから,もっそりした食感かと思えばこれも喉越し軽やか。
「粗碾きにはこちらのツユを」と,みりん味の少し強いツユが出される。
元のツユとも食べ比べてみるが,その味覚の差は鮮やか。
蕎麦全体に関して言えば,薬味のネギが絶品。シャキシャキとした歯応え,噛むほどに広がる辛味と甘味。
これほどまでに鮮烈なネギにはなかなかお目にかかれない。

自然光を大切にしたしっとりした店内,客が多いにもかかわらず落ち着いているのも良かった。
惜しむらくは,上品過ぎのきらいがあって蕎麦にインパクトが無かったことか。